『トランスジェンダーの時代』虎井まさ衛 著 (十月舎刊・2000/11/26発行) 122〜123ページ
充実の五月:TG劇の上演

五月三日〜五日には、「FTM日本」誌上で募られ出演者・協力者が大活躍した舞台劇「不完全な空-やっぱりただの森の中へ」(於武蔵野芸術劇場)が行われました。

ある劇団でのキヤステイングで大抜擢された主人公のマサキが、実はFTMであるとわかった時の周りの団員たちの反応。その全てを包み込んで、劇中劇の幕は開く…。

「めいる.ぽつくす」(「FTM日本」の中の文通コーナー)に投稿して下さった月嶋紫乃さんの企画。舞台上に客席にも「FTM日本」の読者が多くみられました。主人公マサキを演じた「悠」さんも「FTM日本」の読者で、「おっ」と思えるカッコよさでした。もともと演劇をやられていた方ではないというから驚き。これからも続けていってほしいと思いました。

虎井は演劇は二十年に一度くらいしか観ず、適切な批評ができるわけでは全然ないのですが、元々 脚本を読ませてもらっていたので、言葉に生命が吹きこまれてたくさんの人々の情熱によって小宇宙が生まれた結果が、目の前に繰り広げられているのかと思うと感動。

前半のダンス部分が少々冗漫に感じられたり、いくらなにか感じるところがあったにせよ初対面の人にいきなり自分のことをバラしたりする不自然さは否めませんが、社会の縮図を思わせるような劇団の中でのFTMへの差別〜受け入れの過程を座して眺めているのも希望に満たされる思いがしました。


非当事者にとって、この劇はTG/TSそのものについての理解を深める役にはそれほどたたないかもしれません(それはしかし後述の映画(注*)についても同じ。シリーズものか長時間ものでなくては無理でしょう)。ただTG/TSがおかれている状況、その状況の中にいる非当事者としての自分のリアクションについて思いをめぐらせるには、かなり有効な作品。そしてそういったアプローチのほうが、社会全体からしても受け入れ易いのかもしれません。

「今回のことで全てやりたいことはやれたわけではないです。第一回目ということで当事者の方の満足いくものをと思ったのですが、当事者の方と大勢会ってみて、各々一人一人ちがっていて、今回マサキ役のタイプ一人にしぼらねばならなかったのは仕方なかったのです。ともあれ今回の公演は当事者の支えがなければなりたたなかった。私白身自分を解放でき、心の声に素直に従っていいということがわかりました。人とも機会とも大切な出逢いでした」(月嶋氏談)



 *文中の「後述の映画」とは、2000年6月日本公開された、「ボーイズ・ドント・クライ」のことです。(トランス☆プロジェクト注)